2021年01月12日

日本最古の棋書「本因坊碁経」②

皆さん、こんにちは。
関西棋院棋士の星川愛生です。

今この記事を書いている1月12日現在ですが、大阪も緊急事態宣言が出そうですね。
今年もコロナは簡単にはおさまりそうにないです。
早く収束してくれれば良いのですが…。
皆さんもご自愛ください。

さて昨年の12月に算砂著の「本因坊碁経」のお話をしました。
今現在、問題の精査をしていますが失題もあり悪戦苦闘しております💦
その時に疑問に思ったことがあったのでそのお話を。

まずは古典棋書のそれぞれの刊行日と国を見て下さい。
玄玄碁経、1347年、中国
本因坊碁経、1607年、日本
官子譜、1694年、中国
になります。
官子譜より本因坊碁経の方が古いのは意外でした。

ここで私が不思議に思ったのは本因坊碁経官子譜と同じ問題が収録されていることです。
より古い玄玄碁経の問題が本因坊碁経に収録されているのは納得です。
遣隋使や遣唐使の例があるので日本に伝わったのは分かる話です。中国→日本

一方、年代的には官子譜より本因坊碁経が先なのでこちらがオリジナルということでしょうか。日本→中国?
しかし、日本から中国に棋書が伝わるのか少し疑問です。

これは私の仮説ですが、官子譜は今まであった詰碁の集大成として編注したようなので
玄玄碁経ではない、昔からあった詰碁を官子譜に収録した、
また日本にも官子譜以前にそれが伝わっていて本因坊碁経に収録したのでは?と考えました。
歴史ミステリーというと大げさですが、個人的にとても気になります。
この辺りの歴史検証は素人なので、詳しい方がいらっしゃったらご教授いただけると助かります
では折角なので本因坊碁経および官子譜にも収録されている問題を出しますね。

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黒番で何とかして隅の白に手を付けます。
コウになれば正解です。
一合マスの形なので実戦でも出てきそう…
次回に答え合わせをいたします。

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2020年12月29日

女子高生と算砂

皆さん、こんにちは。
関西棋院棋士の星川愛生です。

もう今年も終りですね。本当あっという間でした。
今年は手合の出来は良くありませんでしたが、自粛期間の間に古典の棋譜や詰碁に多く触れ
そういった意味では充実していたかもしれません。
前回ご紹介した「本因坊碁経」にしても、もっと前から知っておくべき価値のある棋書なのに
今年になるまで知らなかったのは本当に謎です💦

さて前回「本因坊碁経」の中から出題したので、その答え合わせから

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黒先コウの問題でした。まずは…

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黒1の切りが肝要です。白は2とつなぐしかありませんが…

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この時に黒3から5のマクリが手筋で実戦にも良く出てきます。

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白6に黒7で二段コウになります。

さて、今回は「本因坊碁経」に関した情報の続きをお伝えするつもりでしたが
今月19、20日に開催された「第9回近畿高校囲碁選手権」についての記事を書きたいと思います。
私は19日の個人戦に審判として参加させていただきました。
大会の詳しい結果はこちら
近畿地区は開催できましたが、一部の地区では予選を開催せずに推薦で代表を決めたところもあるようです。

私は審判の傍ら、参加した選手に指導碁も行いました。
高校選手権では9路盤の部もあり、級位者でも大会に参加しやすくなっています。
その中から、いくつか紹介したいと思います。

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黒は9路盤の部に出場していた女子選手で級位者とのことなので9子でお願いしました。
さて。白1に対して黒2、4の二段バネは初心者が打ちがちな手で、最近のプロの実戦例はあまりありません。
しかし…

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白が算砂で黒が利玄です。今、黒が△にスベったところです。
ここで算砂は…

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白1、3と二段バネしました。星と小目の違いはありますが、上記の女子高生と完全に一致しています
対局後に二段バネの手を「江戸時代に似た手があります」と言ったら、めっちゃ受けてました!
自由な発想が400年の歳月を超えて盤面に現れたのは面白いですね。
しかも打ったのが算砂女子高生というオチ付きです(笑)
他には算砂とは関係ありませんが、

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先程とは別の女の子で白1のカカリに黒2と下にツケられました。
この手は定石ではありませんが、ある種のハメ手として存在します。
黒2をオトリにして、戦いを展開しようという意味です。
ただ、この子はそういう意図では無いみたいで、とにかく1線や2線に打ちたがる傾向があるみたいです。
しかし、その斬新な発想に感心しました。実戦はその後、

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黒8は流石に無謀なのでそこは手直しをしましたが、白7まで充分に黒2のツケが役に立っています。
黒2自体は悪手ではないので、斬新な手と評しましたがそれも何故か受けていました(笑)

こうやって級位者の方と碁を打つのも刺激を受けて大変良い勉強になりました。
これを来年にも活かせたらと思います

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2020年12月15日

日本最古の棋書「本因坊碁経」①

皆さん、こんにちは。
関西棋院棋士の星川愛生です。

いよいよ今年も残り数えるほどになって来ました。
今年はコロナで散々な年でしたが、来年はコロナも収まってくれると良いのですが…

私自身はここ数ヶ月、棋譜並べを始めとして本因坊算砂について調べていました。
その折、算砂著作の本があるという情報を知りました。
本の名前は『本因坊碁経』と言って「本因坊定石作物」との別名もあるようです。
慶長12年(1607年)刊行で日本で最古の棋書とのこと。定石作物とありますが、中身は詰碁本となっております。
大変貴重な本で古書店でも高額で取引されています。
本来なら、その中身を確認するのも難しいのですが実は「国立国会図書館」のHP、デジタルコレクションで閲覧できます。
検索のキーワードは「碁経」です。(玄玄碁経も一緒に出てきますが💦)
おそらく原本をスキャンしたものでパソコン上で問題なく見れます。

私も中身を確認しましたが、すべての問題が算砂オリジナルという訳ではなく「玄玄碁経からの収録問題もかなり含まれます。
この本に限らず、古典の詰碁本は過去の問題を収録するのが慣わしのようです。
現に「官子譜」は「玄玄碁経」から多くの問題を収録している例があります。
それでは「本因坊碁経」からの出題です。

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せっかくなので、手番や向きも原本のまま載せます。
原本には『白先勝』と表記されています。現代なら「白先黒死」ですね。
実はこの問題、私が講師のカルチャー教室で出題したことがあります。
でもまさか400年前からあるとは知りませんでした

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白1が盲点ながら好手です。黒は2と受けるしかありませんが…

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ここで白3と「2の二」に打つのが手順です。一見すると黒6まで生きていそうですが、白7とこちらからアタリにする手があり、黒が死にとなります。

最近になって、この本を知りましたが基本問題あり算砂作の問題もありと、とても勉強になった次第です。
本因坊碁経」と聞くといかにも意味ありげな題名ですが、昔は碁の本のことを『碁経』と呼んでいたようなので「本因坊算砂が刊行した囲碁の本」という意味で良さそうです。
以前ご紹介した「玄覧」同様に問題の精査は進めているので、いつか「本因坊碁経」の解説本も出せたらと思います。
では次回までの宿題を出します(笑)

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原本には『黒先劫生』とあります。「黒番でコウにする」問題です。
筋自体は良くある形ですが、同型の問題は他の古典詰碁でも見つけることが出来ませんでした。
なので「算砂作の詰碁」と言っても良さそうです。実戦型なので算砂は自身の打ち碁からヒントを得たかもしれませんね
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2020年12月01日

温故知新②小目へのカカリ方

皆さん、こんにちは。
関西棋院棋士の星川愛生です。

流石に12月になると寒くなってきましたね。
コロナもまた感染者が増えてきて改めて用心しないと行けない状況です。

さて前回の終りに小目にどうカカるかを皆さんにお伺いしました。
私個人は現在は小ゲイマにカカるか、いっその事小目隣の星にツケる手を多用しています。

小目は歴史が古く、前述の算砂の時代から打たれています。
カカリ方も基本的には小ゲイマガカリが多いですね。
江戸時代も小ゲイマが多く、江戸後期になると趣向で一間高ガカリも見受けられます。

それ以外のカカリ方と言えば、大ゲイマガカリ二間高ガカリですが皆さんはこの2つのカカリ方はどんな印象がありますか?
私個人の印象大ゲイマ二間高は昭和になってから打たれた比較的最近のカカリ方…でした。
しかし、これは不勉強ゆえの認識で二間高ガカリはともかく大ゲイマガカリは算砂の時代から打たれています。

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黒が利玄で白が算砂です。黒が今、三間に開いたところです。(印が付いたところ)
ここで算砂は…

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白1と大ゲイマにカカリました
囲碁AIならAにツケるかもしれませんが、それ以外の打ち方なら白1の大ゲイマガカリが一番ベターです。
現在でもここに打つ人は多いのではないでしょうか?
私は最初、白番ゆえの算砂趣向の大ゲイマガカリ…とも思ったのですが他の対局でも

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利玄が黒番でも黒1と大ゲイマにカカっています。この時代、小ゲイマの次に大ゲイマが多いです。
算砂の棋譜は30局あまり残されていますが、大ゲイマガカリが打たれた対局は6局ほどありました。
割と良く打たれている印象です。

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ただ、現代と全く同じという訳ではありません。上の図は大ゲイマガカリに手抜きした時に用いる現在の定石ですが
白1のツケ自体ほとんど打たれない(1局だけありました)上に黒は2と押さえる変化は見受けられませんでした。
流石に定石は発展途上のようです。

大ゲイマガカリと言えば、呉清源九段の「21世紀の碁」で多用されていたので比較的最近に打たれ始めたものだと思っていました。
それがまさか算砂の時代から打たれていたとは驚きです。
実はこの話を横田茂昭九段にしたら「算砂の時代は知らなかったけど大ゲイマガカリは秀甫も打っているよ」と言われて改めて自身の不勉強さを実感しました💦
秀甫とは村瀬秀甫で幕末から明治の棋士です。本因坊秀策の弟弟子ですね

よくよく考えてみれば、算砂の時代は辺も重視していたので『辺を意識しつつ小目にカカる方法』を考えたら大ゲイマガカリはむしろ自然な手だと思い至りました。
『大ゲイマガカリは新しいもの』という思い込みが邪魔をしていたんですね。
前回もそうでしたが、我々の思い込みや固定観念をどう打ち破るか悩みどころです。
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2020年11月17日

温故知新①算砂とAIの共通点

皆さん、こんにちは。
関西棋院棋士の星川愛生です。

最近は福井正明先生の「囲碁古名人全集」を並べております。
具体的には本因坊算砂中村道碩ですね。
このお二人の碁は今までほとんど並べた事がないので、とても新鮮な気持ちです。

本因坊算砂と言えば本能寺の変前夜に信長の御前で対局した事が有名ですよね。
現在放映中の、明智光秀の大河ドラマ「麒麟がくる」も時代が同じで正に本能寺の変がクライマックスになるかと思います。
流石にドラマには出ないとは思いますが、算砂は信長の囲碁指南役との話もあるので光秀算砂はもしかすると顔見知りだったかも知れません…
そんな空想を膨らませれるのも古典の碁の魅力です(笑)

さて、算砂の碁を並べていると凄い手がありました。
算砂が白で黒は林利玄、林家の祖と言われています。

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この時代の碁は空き隅を放置して戦いを展開していくことが多いです。

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黒21までこの局面になりました。
皆さんはここでどう打ちますか?第一感は白Aと押したいですが、黒からBの切り筋が残っています。
算砂はここで常識外の攻めを敢行します。

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白は1とハネました。黒は当然、2の押さえです。
ハネた以上は白Aとつなぐのが常識ですが…。

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実戦はかみ取りが残っているのに白3とノゾキました!!凄まじい迫力です。

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もし黒が4、6と来たら7とまとめて攻める意図かと思います。黒Aの切り筋も消滅しましたし、白がにぎやかそうです。
この算砂切れないノゾキの形は以前見たことがありました。

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部分図で申し訳ありませんが、この様な定石があります。

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ある時AIに白△とノゾカれたことがあります。局面としては白がA方面から打ちたい場合です。
最初に打たれた時はびっくりしました。そこから攻めていくのかと
意味合いは違いますが、切れないところをノゾクのは前述の算砂と同じです。
たまたま似た様な手を打った…と言えば話は早いですが、なんでだろうと考えていたら思い至ったことがあります。

この時代の碁は定石などが確立されいないので、ほとんど一手一手ゼロベースで考えています。それは算砂も同じです。
一方、AIAlphaGo ZeroLeela Zeroは(確かkatagoも)教師データなしで強くなっています。
ということは両者(?)ともに『定石だから』とか『誰かに教えてもらった』ではなく、自身で考えて打っているのが共通点ではないかと考えました。
どうしても我々は定石や基本形を強くなる過程で身に着けているので、そこから中々脱却できなかったりします。
それが悪い訳ではありませんが、常識に囚われるのがジレンマですね。
常識に囚われない算砂やAIに見習うところがたくさんあるかと思います
それにしても最古の算砂と最新のAIに共通点があるなんて、本当に囲碁は面白いですね!
↑に今回の棋譜のリンクを貼ったので良かったら並べてみてください。

次回はAIとは関係ありませんが同じく算砂を取り扱いたいと思います。

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皆さんは小目にはどうカカリますか?小ゲイマか一間か…大ゲイマが好きな人もいるかもしれませんね。
次回は小目へのカカリ方をテーマにしたいと思います。
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posted by プロ棋士さん at 15:43| Comment(0) | 囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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